治療と仕事の両立を考える
以下は、厚生労働省労働基準局安全衛生部、職業安定局の要請研究
*途中、[ONE]はONEの見解を記載しております。
〇働き方改革の議論の中で、治療と仕事の両立に係る支援の強化が求められていることから、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)を踏まえ、がん患者・難病患者等(がん・脳血管疾患・心疾患・肝炎・糖尿病・難病(※))の就労実態を把握する必要があるため、企業ヒアリング調査及び、患者ヒアリング調査を行った。
本調査は、厚生労働省労働基準局安全衛生部、職業安定局の要請研究である。
※本調査の「難病」とは、障害者総合支援法の対象疾病にあたるもの。(2019年8月)
〇研究の方法
企業ヒアリング調査:「病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)」(平成29年度)において、ヒアリング調査に協力可能と回答した企業を中心に調査対象を選定した。調査対象は大企業9社(業種:建設業1社、運輸業2社、製造業3社、情報通信業1社、小売業1社、飲食サービス業1社)。
患者ヒアリング調査:「病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(web患者調査)」(平成29年度)の回答者(がん、脳血管疾患、心疾患、糖尿病、肝炎、難病――等の疾患経験がある者)から選定した。調査対象は20人(がん、脳血管疾患、心疾患、糖尿病、肝炎、難病)。
企業ヒアリング調査)
産業保健スタッフ体制では、産業医は、通常の相談受付のほか、要管理者・過重労働者や復帰者の面談なども実施している。一方、保健師等(保健師、看護師等)を雇用している企業もある。保健師等の役割としては、事業所内に常駐していることから、勤務中に体調不良を訴えた者の看護や怪我をした者の手当てのほか、社員への健康指導、健康相談に加え、健康診断での有所見者のフォローアップや産業医の健康指導のための基礎資料作り(長時間労働者のリストアップ等)も行っている。
健康診断で、人間ドックやがん検診などのオプション検査の受診勧奨をしている企業もある(早期発見に役立つがん検診の強化)。健康診断で異常所見が出た場合の対処(フォローアップ)としては、いずれの企業も、要精密検査・要受診の対象者に対して受診勧奨を行っている。健保組合の連携(コラボヘルス)により、重傷化を防ぐための予防措置も強化している企業もある。
休職から復職するのに際して、本人の復帰意思と主治医の就業可能とする診断書に依拠している。これらを踏まえ、産業医面談や復職検討委員会(産業医や人事部門と職場(上司)等)を通じて復職可否が判断される。復帰時には、産業医の指導の下、残業不可・出張不可などの就業上の配慮をする場合がある。
企業の疾患罹患者の特徴として、罹患者数ではメンタルヘルスが多くを占めている。
休職者は職場復帰する者が多いとのイメージである。身体疾患では、がんや脳血管疾患などで休職に至る場合もあるが、短期の手術入院で治療する場合も多く、年休等(有給休暇)の範囲内、あるいは欠勤期間中に治療自体は終わり、休職に至る前に職場復帰ができている
[ONE:治療を年次有給休暇で消化することの課題】
、とする企業も多い。ただし、脳卒中、心疾患の場合、後遺症が残るほどの重篤な症状の場合、リハビリテーションが必要になるため、休職期間満了寸前まで休業する者も見られる。心疾患、肝炎、糖尿病、難病については、大半が年休を活用して、通院治療を受ける場合が多く、休職に至るケースはまれ、としている。なお、休職に至る者は重症化しているケースであり、半年~1年等の長期の休業期間を要し、休職期間満了に至るケースもみられる。
病気の治療と仕事の両立での効果的な施策として、
① 長期の休職期間などの会社を休める制度、通院しやすい休暇制度(時間単位年休やフレックスタイム制度等の柔軟な労働時間制度)
② 早期発見のためのがん検診等の強化や、健康診断での有所見者に対するフォローアップ
③ 予防重視の健康指導対策を打つための健保組合の健康情報データの分析
④ 医療知識を有した人材(保健師等の専門職)の配置(常勤)――などがあげられた。
[ONE:①の休職期間などは有効性が高いが、病気休暇は全事業所の25%制度しかなく、大企業、及び公務員がるようできる状況。働き方改革での治療と仕事の両立での取り組みのうえでは、この病気休暇の法定休暇制度化n検討は重要と考えられる。
(患者ヒアリング調査)
疾患治療の特徴として、疾患発症時は、外科手術や投薬治療等で入院を要するケースが多いが、早期発見の場合、がんや難病等のいずれの疾患も短期入院で治療が終わっている。ただし、がんで進行度が高い場合等で、長期(1年程度)の入院を要するケースもある。退院後は、定期検査(経過観察)が続く(とくに脳血管疾患や心疾患、糖尿病、難病では投薬治療が継続)。
会社側の復帰後の対応としては、配属先は原職復帰とするケースが多い。ただし、配属部署が原職復帰でも、会社側の配慮として、業務内容を変更するケースはある(業務負荷軽減のため、営業職→内勤)。配置・業務の変更以外での具体的な配慮内容としては、残業禁止や出張禁止等を設ける場合が多い。とくに、化学的治療の副作用や後遺症がある場合に企業の配慮がなされている。
就業継続ができた理由としては、身体疾患の治療の場合、入院治療時に一定期間の療養(入院)と、退院後の通院治療が必要となることから、長期の休職期間と通院の保障がなされることなどがあげられている。また、会社側の配慮があった者については、業務・働き方の見直しを評価している者も多い。なお、疾患罹患により退職した理由としては、休職期間満了か、依願退職による退職が多い。とくに非正社員では、休職制度の適用がないことや、契約期間満了などによる退職が目立つ。
[ONE:同一賃金同一労働の取り組みより、非正規雇用労働者にも、休職制度の適応の検討は重要と考える。そもそも、非正規雇用労働者、正規雇用労働者との区別、あり方、多さ、雇用の不安定さは、日本社会の大きな課題となっている。
疾患に罹患し退職した後の求職活動では、疾患罹患を伝えたことが不採用の原因とする者もいるが、身体疾患罹患者の年齢層が高いこと(40代後半層)による難しさを感じている者もいる。採用された雇用形態では非正社員が多い。非正社員での採用で困難を感じる者は比較的少ない。採用された理由は、人手不足の結果とする者が多い。
患者が求める両立支援策としては、
① 転職しやすい制度の構築(疾患罹患者向けの求人の増加(派遣含む)、疾患について面接等で上手く伝える仕組み等)
[ONE:①の仕組みづくりは国が先導して取り組む重要案件
② 公的支援(高額療養費制度や医療費助成、リハビリ施設の充実等)
③ 会社側の両立支援(長期の休職制度(休めること)、傷病休暇の法定化や通院目的の年休取得促進に関わる指針、短時間勤務、テレワーク等)――などがあげられた。
政策的インプリケーション
大企業を中心として、長期療養ができる企業(失効年休積立制度や長期の欠勤期間がある企業)においても、重度の疾患の場合、休職期間満了で退職する者がいることから、疾病の早期発見、早期治療が重要である。そのためには、医療知識のある産業医や保健師等の知見が得られる仕組み作りが重要である。また、早期発見や予防の観点から、健康診断等により疾患の検出能力を高める仕組みも必要となっている。
[ONE:早期に発見、早期治療により、治癒する病もあるが、現時点での医療では治癒にまでいたらない難病患者は世界中におり、増加している。原因が特定しにくい、また治療法が開発途上の病が日本や世界にあるという世界の常識を、日本社会も向き合い、そうした患者の就労に対して、病気休暇が特別休暇の位置づけとして、一部の企業と公務員に与えられている制度げ限局していること、そこに困難があることを社会として向き合う必要があると考える。
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